▪︎籠る
kが眠っている。
いつもと変わらぬ健やかな眠り。
6連勤の後、ここに帰ってきたのは22時半を回ったころ。
いつものようにー
車のハザードが居間の窓を照らし
彼の車が駐車場に停まる。
エンジンの止まる音。
車のドアを開ける音。
それが閉まる音がする頃には私はもう
玄関を開け、駐車場に続くガラス戸を開いていた。
取り立てて
急ぐこともせず彼は
いつものようにー
ゆっくりとした足取りで車の陰から顔を出す。
にっこりと笑う。
いつものようにー
家の中まで待ちきれないのだ二人は。
なのでそのガラス戸の前で
私は彼の首に手を回して背伸びをし、
彼は私の腰を抱き、
二人は言葉の前にキスを交わす。
お帰りなさい、とただいま、は
キスの合間に交わされる。
呪文のように。
お腹いっぱい食べて、
二人で白ワインを1本空けた。
そして彼は
ベッドまで行かれないくらいに疲れて、
リビングで寝落ちる。
なので今夜は、リビングに客用の布団を敷いた。
愛おしい、とおもう。
それだけだ、とも。
だってほかに何が要る?
この。
愛おしさ以外に。

肉がいいな、と言うので
山盛りの生姜焼きを作り、
でも魚も、とか
それと野菜も、とか。
彼を愛していることを。
彼は知っているのかしら。
あしたはゆっくりしましょう。
またどこへも行かずに二人は
ここに籠るだろう。
ここが一番居心地が良いのだ、二人にとって。
何も足し引きする必要のない、
小さな
二人だけの世界がここにある。
あすはそこに籠って
二人だけの小さな世界に溺れて過ごそう。
身体中の凹凸を合わせ、
違いを感じ合いながら
会えなかった5日間を埋めよう。
二人の体温で。
#大人の恋#恋愛小説#最後の最愛#ただ愛しいだけ


