▪︎Happiness is bittersweet
夕べ、21時前。
彼の車のヘッドライトが窓を照らす。
そのオレンジに、
目も。
心も。
引き付けられ、惹き付けられて
私はにわか、動けなくなり、
ハッと我にかえって玄関を開け、廊下に出る。
マンションのガラス戸の向こうに
背の高い彼のシルエットが見えている。
ガラス戸が開き
彼が歩いてくる、
いつも通りのゆっくりした足取りと
にこやかな笑顔。
仕事帰りの、少しの疲労感が滲んで憂いを帯びた、
その静かな笑顔にまた
私はやられてしまい
「おかえり〜」という声が
震えてはいなかったかしら、などと。
彼の首ったまに腕を回しながら。
甘くて柔らかな口付けを受けながら。
ぼんやりと思ったりした。
どうしても、
こんなにも、
この人が好きだ、と思う。
どうしてかしら、とも。
水曜は仕事だと言っていたので
食事をしてすぐに眠れるように、と。
ー仕事の前日はアルコールを摂らない人なのでー
ーご飯のおかずになるようにと私はー
クリームシチューを煮たり、
茄子を焼いたりしていたんだけれども
思いがけず
「明日は休みになった」と言う。
その一言で、私は大きな波のような揺れを心臓に喰らうんだけれども。
彼はそんなことには気づくことは無いのだろうー生涯ー
「じゃ、明日も一緒にいられるのね」とは言えずに。
「じゃ、今夜はビールが飲めるのね」と変換して伝えた。
彼は返事の代わりににっこりと笑った。
ならば。
枝豆とか。
もう少し、つまみに寄せた何かを作ってあげられたらよかった、などと
風呂の擦りガラスに映る、彼の広い背中を見ながら思ったりした。

アボカドのサラダとか。
びんちょうの柚子胡椒炙り、とかで
二人でビールを2本空けた。
GW、4日と5日に予定が入って来れなくなった、と言う。
胸が、
ドキン。となって、
チクン。と鳴った。
彼は、
気づきはしないだろうけれども。
その、鈍い痛みにも。
その、ささやかな音にも。
そして彼は続けた。
5日、遅くなるけど夜から来るよ。
11時くらいになっちゃうと思うけど。
心が泣き笑いする。
嬉しいような。
悲しいような。
悲しいような。。。
にっこり笑って答えた。
「うん。待ってる」と。
「遅くなっても構わない。」と。
その言葉には翳りも嘘も無いのに。
女心はいつでも。
言葉とは裏腹。
そして、
男は気付けない。
朝になり。
彼は私の腰を抱き
夥しい数の、やわらかなキスをくれる。
ーそれは、ことの始まりのsignー
彼の身体の形
ー肩の線や、硬い筋肉や、背中のカーヴや、
尖って美しい尻、長すぎる脚、とかー
匂い、肌質、手触り。
愛し方。
果てる時の呻く声。
何もかもが愛おし過ぎて
愛を交わすとき私はいつも
喜びよりも、よほど多くの
切なさを感じてしまう。
本当に幸せなとき、人は
切ないのではないか、と私は思っている。
これはどう?
間違っている?

午睡する彼の寝息を聞きながら
この日記を綴っています。
この瞬間を、
幸せ、と呼ぶのだろう。
だってこんなにも。
切ないもの。
いとしすぎて。
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