▪︎サイドミラー
kは、その日の段取りに合わせ
朝の4時や、
6時などに起きて
仕事に向かう。
朝はフルーツしか食べない人なので
私は彼のアラームより15分ほど早起きをして
ー寒がりの彼のためー
リビングを急速暖房し、
珈琲を落とし、
フルーツの皮を剥く。
程なく寝室から、kの携帯のアラームが鳴り出すけれども
その音が止まることは無い。
ベッドサイドに置かれたアラームを止め
朝よ、と声をかけると
彼はぼんやり私を見つめて
意を決したような面持ちでベッドを出てくる。
リビングのヒーターの真下に座り
暖かな風に当たりながら
着替えをする彼の
裸の胸や腕、腹などから
私は目が離せなくなる。
不躾なくらいに。私は。
着替えている彼の、美しい筋肉に見惚れてしまう。
少し前まで、その身体の下に。
組み敷かれていた自分を想い、
そして
頭を振って、その残像を振り払う。
未明の寒い朝だ。
コートを羽織り、
kの後ろについて駐車場へ出る。
出かける前にkはリビングで
長い、長い、甘いキスをくれるんだけれども。
玄関で靴を履いた後にも。
それから車に乗り込む前にも。
そして乗り込んで、運転席の窓を開けてからも。
二人は何度も名残を惜しんでキスを交わす。
そのキスがさらに
名残惜しさを加速させることを知っていても。
二人はそれを止めることができない。
青白い月が、私たちを静かに照らしていた。
物憂げに。
kの車はゆっくりと発進し、
やがて私の視界から消えてしまう。
車が消えると急に
私は外界の寒さに気づいて身震いする。
まるで。
まるで夕べからの何もかもは
夢だったかのように。
途端に私は不安になる。
けれども。
リビングには、まだ彼の名残があったし
寝室には、まるで二人の熱が籠ったままで
息苦しいほどだったので、
夢では無かったのだ、と
そう想って私は安堵する。
心から。
kからLineが送られてくる。
「サイドミラーで、いつも見てるよ。
車の中からの投げキッスは届いてる?」
返事を返した。
「投げキッスしてくれてるの?
次からは私も。」と。
#恋愛小説#大人の恋#最後の最愛

